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フリーライターの吐きだめ

そんな夜

気温30度、梅雨の晴れ間。街行く人たちは眩しそうに目を細めて歩いている。日焼け止めとムスクの香り。二の腕には大きな痣が残っているから、私はまだリネンのシャツを手放せずにいる。

6月11日は彼の誕生日で私は会社を3日間休んだ。静岡の高原でシュノーケリングをしたり、土砂降りの中で紫陽花を愉しんだり、縁側のある森の中の旅館で過ごした。途中スーパーで買ったプラムを温泉から上がって2人で食べた。甘くて瑞々しい、畳に火照った脚を放り出す。いつか縁側のある家に住みたい。その日の夜はB級ホラーを観ながら布団をくっつけて寝た。

少しずつ悲鳴を上げていたのかもしれない。分からないフリしてたけど、崩れるのは呆気なかった。些細なことじゃないかと言われたらそうかもしれないけど、「明日は私の都合がいいからあなたが合わせて出向いてください」と明日休みのわたしのことなんて御構い無しな発言はわたしのトラウマを奮い起こすのには十分過ぎた。もう二度とわたしの人生をわたし以外のだれかに邪魔されたくない。邪魔されてたまるか。

昨夜は少し離れたところで嵐があった。家の窓は雷で幾度となく光った。ストロボみたいな大きな光には音が無くて怖くなかった。泣き疲れて胸の中で眠った日から頻繁に猫関係(秋頃に猫を飼う予定です)のラインがあって、励まそうとしてくれるその姿勢にまた泣きそうになった。少しずつ、でも確実に、健やかさを取り戻すわたしを見て笑顔になるその人のやさしさにはいつまでも敵わない気がする。

明け方、大学の頃の友人から着信があって目を覚ました。長く震える着信に心がざわついた。空は白み始めたところで、いわゆる緊急事態だとすぐに分かった。しきりにわたしのことを気にかけるときは友人の方が参ってるときだ。変わらない分かりやすさ、まほのことなんて全然分からないと何度か喧嘩した頃を思い出す。満たされないと話す彼の光は、自分で自分を奮い立たすこともまともに出来ないわたしの一声らしいから不思議だ。

「ずっと思ってたけど、まほちゃん絶対(メンタル)強いよね」と先輩達に肩を組まれて笑ってしまった。「絶対アイドルとか向いてると思う」と興奮気味の先輩はわたしが誹謗中傷ノーダメージの無敵な女だと思ってるらしい。いやいや、タイムリー過ぎるでしょ。どうやら守ってあげたくなる女タイプではないらしい。

それってどうなのよと思うけど、仕事終わりの生ビールで幸せになれるからまあいいや。