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フリーライターの吐きだめ

強炭酸

眠れたことに安堵して起きる朝。近頃はまた眠りが浅くなりつつあって、夜中に何度も起きたり、明け方ようやく眠れる日々が続いてる。

梅雨明けはしたのだろうか、多分まだだ。日の出前、ベランダに出ると蒸した風と蝉の声が聞こえるようになった。

彼が東京へ出張に行く前日、30分だけ眠るつもりだった昼寝は2時間を超えていて気付けば夕陽は沈んでいた。怠い手足を放り出してiPhoneを手に取る。ふと思いつきで、レイトショーが観たくなった。

調べると話題のジブリがレイトショーでやっていた。しかも、わたしがジブリの中で1番好きな「ゲド戦記」じゃん。寝惚けた彼を揺り起こして映画に行く準備を始めた。

「絶対に寒いって言い出すよね」「絶対に言うよ、羽織るもの持っていきな」そう言われて夏素材の薄手のジャケットを手に取る。メイクも適当だけど別にいい、リップだけはきちんと塗ろう。

「いつも突然なんだもんな」と言いながら、「行こうよ」と誘えば「いいよ、行こう」と言う彼。「レイトショーすきなんだよ」と話すと「そうなの?知らなかった」と優しく笑った。

上映される映画館は電車で2駅先の唐人町というところで、PayPayドームが近くにある。駅に到着すると川沿いを10分程歩くのだけど、この川は海へと繋がっているから、風に運ばれて海の香りが鼻先に届くのがうれしい。

「腐るほどお金があったら何したい?」そう聞かれて「釣り堀でもしようかな」と答える。儲かってるか儲かってないのかも分からないような釣り堀、アイスと駄菓子を売ってる売店もつけて、緑に濁った釣り堀を眺めてたいな。

汗をにじませながらようやく映画館に到着。すきなホットフードはここには売っていなくて、ふたりでホットドッグを注文。ポップコーンはあまり好きになれない。

映画館は今コロナ仕様で座席をひとつ空けての着席しかできなくなっている。映画デートに来ても、座席ひとつぶんの距離を空けるのってなんかすごい素敵だ。面白そうな映画の予告が終わる度に目配せして、リアクションを取り合ったのもきっと良い思い出になるでしょう。

久しぶりに観た「ゲド戦記」は、相変わらず絵も音楽も何もかもが美しくて、映画館で観るのと家で観るのとでも全く違った。自己と他者、生と死、そんなテーマで進む物語には竜が登場して少し救いがあるけれど、限りなく人間に迫る「ゲド戦記」は目を背けたくなる人が多いんじゃないかな。そこまで考えてみる人もいないかもしれないけど。それはそれでいい。

映画が終わって閉館時間前の真っ暗なモールをふたりで歩く。空調が止まってぬるい道を歩いてると、プールの後の教室に居るような気持ちになった。

「原作が読みたくなった」という彼に「原作と映画は違うよ」と伝える。映画の世界を理解したいなら、何度も映画を観るしかない。生きてきた時間と照らし合わせて、何度も観るしかない。

最寄駅近くの居酒屋、深夜0時前に軽く夜ご飯を食べる。さっそくWikipediaでゲド戦記を検索する彼をみて、黙ってハイボールを流し込んだ。そこに、あなたの知りたいことが本当に載ってるの?便利な辞書代わりのそれを否定するつもりはないけど、それだって所詮どこかの誰かが編集したもので、誰かの頭の中ってわけだからわたしはあまり好きじゃない。警笛には誰も気付いてない。

注文したサワラの塩焼きは想像より立派なのがきて驚いた。福岡は基本的にどのお店に入っても美味しくて、東京の居酒屋とはレベルが違うことを痛感する。こんなの東京で出したらいくらとられるんだろう。

帰り道、シーシャに寄りたかったけど言い出せずに家まで歩いた。本当は朝まで遊んで、鳥が鳴いたら帰りたかった。

 

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