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フリーライターの吐きだめ

混まれる

「いっしょに西瓜たべない?」

酔ったせいで、夏のせいで、ありとあらゆる言い訳を浮かべてみたけれど、ただ単純に会いたくて連絡をしてみる。

すでに先約が入っていて、すでにお酒も飲んでいて、それでも頭の隅から離れない感情のままに行動してしまう。いい大人なんだから、いつまでそんなことをしてるのと誰かが嗜める声に蓋をして、もしかしたらと願って待つ間、大して面白くもない話を大袈裟に笑って聞き流す。

「スイカいいね」

トレーニングが終わってからならいつでも大丈夫だと連絡がきて、同時に少し肩の力が抜けて、思ってたよりも緊張してたことを知った。

小学生の頃のわたしの悩みは、いつまでも遊びに「誘う側」だったこと。どんなに仲の良い子でも、いつもわたしから誘っていて、誘われるあの子たちがずっと羨ましかった。でも、その悩みはいつからか遠い過去になっていて、歳を重ねた今は、あの頃憧れた「誘われる側」になってる。

念願だったはずなのに、人は足りないものを求めるのか、大人になった今はいつでも誘える強さと自信が欲しい。考えすぎかな。

そんなわたしだから人を誘うときは、いつも少し緊張して、勇気を出して声をかける。今夜のことも例外じゃない。

3軒目のバーで帰ろう、そう思って店内へ入ると金髪のマスターがお出迎えしてくれた。メニューを見ずにジントニックを注文、3人で乾杯しながら真っ赤に塗られた天井を見つめる。

「人といっしょにいるのに、寂しい気持ちになることってありますか?」

爽やかに香るジンを飲みながらマスターに問いかける。

「あるよあるよ。あのね、遠いんだよね。隣にいるのに、すごく距離を感じると寂しい気持ちになるよ。」

ああ、遠いのか。そうだ、それじゃん。なんで今まで気付けなかったんだろう。

「ちょっと、わたし会いたい人がいるので」

そう言って店を出た後、足早に西瓜を買いに向かう。398円、熊本産の西瓜は赤くて瑞々しくて今すぐかぶりつきたい。今すぐ会いたい。

玄関の扉を開けて、いつものその人がいて、急いで酔っぱらったフリをする。

「スイカ食べよう」「声大きいよ」

笑われながら部屋に雪崩れ込む。夏の暑さに背中を押された夜、「会いたかった」を言えない代わりに大きな西瓜を差し出して。