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フリーライターの吐きだめ

BPM83

窓から差し込む陽の光で目が覚める。重い瞼を薄っすらあけて頭の上のデジタル時計をみると時刻は九時をさしていた。ようやく見慣れた白いブラインドは遮光性が皆無で「眩しくないの?」ときいた私に「俺そういうの全く気にならないんだよね」と軽やかに笑った昨晩の彼の言葉を思い出す。腕枕をする彼の手のひらに手のひらを重ねるとそっと握られて壁際にあった彼の左腕が腰へ伸びてきた。100か0でしか関わられないという彼の熱烈なアプローチを受けて今わたしは彼の隣にいる訳だけれど、未だにどうしてそこまで好きになって貰えたのか不思議で仕方がない。彼の方へとぐるりと向きを変えるとぎゅっと抱きしめられてまた眠ってしまった。私よりも少しだけ高い体温が心地いい。

次に目が覚めた時には時刻は十一時をさしていて、さすがに起きるかとトイレへ立った。脱ぎ散らばった服の中から彼のシャツを手に取って取り急ぎ身に付ける。昨晩もいつものように遅くまでお酒を飲んで、ソファで映画を観て、それからシャワーを浴びる間も無く抱き合ってそのまま裸で眠ってしまった。手を洗って鏡で落ちたマスカラの繊維を拭う。よれきってしまったメイクはわりと調子が良いから案外悲惨なことにはならない。ベッドへ戻ると瞬く間に手が伸びてきて気付けば汗だくになっていた。

「じゃあまたね」そう言って部屋を出て帰るのは自宅、途中セブンでアイスラテを買って歩く。随分と風が涼しくなった。八月ももう終わる、今年は夏が短かったように感じる。自宅へ戻ってシャワーへ直行、全部を洗い流してちょっといいボディオイルを惜しみなく身体に塗りたくる。イランイランの甘い香りが鼻に抜ける。冷たい水を飲みながらデートに備えてまたメイクを開始。昨晩あんなに飲んだのに浮腫はゼロで割と最高のコンディションだった。丁寧にメイクをして、丁寧に髪を巻いて、でも服装はラフに。いつ見ても可愛いと思われたい。日中も随分と涼しくなった。少し歩いてスタバで待ち合わせ、本当のことなんて分からないけど別にいい。なんだかんだでもう一年が経った。別れ際、ひぐらしの鳴き声が聞こえた。「この後どうするの?」そう聞かれて「分かんない、何もない」と答えながら泣きそうになった。本当に私には何もない。

タイミングよく飲みに誘われて夜は再び天神へ。なかなか酔えなくて気分が悪かった。自宅に向かいながらあのとき我慢した涙がまた迫り上がってくるのを感じていつもより少しゆっくり歩いて帰った。