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フリーライターの吐きだめ

目玉焼きとコーヒー牛乳

祖母が亡くなったと連絡が来たのは、祖父が亡くなってからひと月が経った頃だった。祖母はもう随分と前から苦しそうにしていた。お医者さんによると祖母は肺のひとつがもう機能していないらしかった。それでも耳だけは良くて、言葉を発するより前に耳を傾け…

暗転

ここ最近は雨が続いている。濡れると冷たくて、爪先が悴むような冬が近づいている雨だ。外出も多くて、人の悪意に傷付けられることも多い。念入りに巻いた髪がぐしゃぐしゃになったり、出先で買った傘を何度も忘れたり、ささやかで憎たらしい仕打ちに心は摩…

黄桃

沈みがちな日々が続いている。これといって明確な理由がある訳ではないけれど、細やかな綻びがチリとなって積もった結果だと思う。きっと誰のせいでもない、強いて言うならば全ては私が招いた結果だ。日中はまだ陽射しが強いけれど涼やかな風が袖口から背中…

BPM83

窓から差し込む陽の光で目が覚める。重い瞼を薄っすらあけて頭の上のデジタル時計をみると時刻は九時をさしていた。ようやく見慣れた白いブラインドは遮光性が皆無で「眩しくないの?」ときいた私に「俺そういうの全く気にならないんだよね」と軽やかに笑っ…

アイスティー

13日の金曜日、以前から観たいと話していた映画へ行くことに。前日まで沖縄に滞在していたからかベッドから起きて直ぐ身体が怠かった。詰め込んだ3日間だったから疲れが溜まってたんだろう。映画を観に行こうと決めたのは福岡に帰ってきた12日の木曜、23時く…

与える

「言えたことだけが気持ちなんですよ」あるドラマのワンシーンでの台詞。頭殴られたときみたいな衝撃があったというか、頭殴られたことないけど。目から鱗みたいにハッとさせられたというか、目から鱗とれたことないけど。巻き戻したりなんかは別にせず、そ…

牛丼並盛りつゆだくで

彼と初めて会ったのは春先のまだ風が冷たい頃だった。東京スカイツリーの側に流れる川辺の桜が満開を迎えていて、道ゆく人々が次々と立ち止まりシャッターを切っていく。暖かな陽気が続いていたのに彼と会うその日だけは底冷えするような気温で、カーハート…

離ればなれ

何かを好きで居続けられる人はすごい。小さな頃はよく食べたフレンチトーストも、何度も練習した一輪車も、いつかは結婚すると思ってたあの人のことも今じゃもう別に好きじゃなくなってしまった。フレンチトーストは胃がもたれるし、一輪車なんて何年乗って…

やさしさの距離

午前九時過ぎ、前日に午前指定にしたダイソンが届くインターホンで目が覚めた。念願の掃除機、なんだかんだでずっと買えてなくて、そうこうしてるうちに新作が出て、どうせならとその新作を買ってしまった。家電は長く使うことになるから日割り計算で正気を…

有り余る空想

私のために冷やされた部屋、彼の居なくなった部屋のベッドから今朝も中々動かないでいる。出勤時間が少し遅くなった彼の朝はそれでも早くて、今日は朝から一日久留米に閉じ込められるそうだ。きちんと朝食を作ってお弁当を用意して食器を洗ってゴミをまとめ…

夜明け前

とくに書きたいこともないなと思って、それをツイートしようかと思って、でもやめて久しぶりにはてなブログにきた。明日から天気が崩れるみたいだからとベランダに干したベッドシーツを取り込んで、新調したエアリズムのシーツを掛ける。この前の感謝祭で手…

消毒

これ以上自分のことを嫌いになりたくない、そんな思いで電話したんだと10分ばかりの会話を終えて、暫く当てもなく夜道を歩いたあとに気付いた。せめて、もっと自分をすきになりたいとか、そういう洋楽のイケてる女の子みたいな強い気持ちでいられたらと思っ…

目から鱗

今月で無事に26歳を迎えたけれど、何度お世話になったか数え切れないサイゼリヤで、本日、人生初めて気付いたことがある。わたしは他人の気持ちがよく分からない。この場合の他人は自分以外のことを指していて、それが親友であれ、家族であれ、恋人であれ、…

新生姜

真夜中の三時、眠れなさに痺れを切らしてインスタント麺を作りに台所へ立つ。日頃から体調には気を付けているし、サプリを飲んだりジムへ行ったり健康意識は高い方だと思う。それに今までずっと我慢してきたし、今夜くらいはその誘惑に乗ったっていいじゃな…

山菜の苦味にはまだ慣れない

夏が近づくと保湿コーナーが角にやられるあの現象はいったい何なのか、露出増えるはずなのになとか思いながら駅前のドラックイレブンに吸い込まれる。福岡はマツキヨ完敗、ドラックイレブンのひとり勝ちらしく、街を歩けば大体すぐに勝者を見つけられる。ニ…

虚実

寝ても寝ても身体が怠い。久しぶりに風邪でも引いたのかと思って体温を測ったが至って平熱だった。花粉症のせいで酸欠状態なのか、就寝前に薬は飲んでるというのに。起き上がる背中にも鈍痛があって、寝付きは良いが目覚めが悪い。体調を崩す前、性欲が高く…

背中の痛み

挙式まで一ヶ月を切った。粛々と準備をしながらも両家の質問の窓口になった私のラインはいつもより通知が多い。世間は未だコロナ、コロナとうるさいし、関東は緊急事態宣言が延長された。もう勘弁してくれよと思いながらも、夜の上野を歩いてると土曜の夜ら…

汗ばんだ肌からは陽の匂いがする

二度寝から目覚めた日曜日はもう昼過ぎで、汗だくのまま眠りについた身体はベタついていた。絡み付いた腕から出て散らばったトレーナーを頭から被っていると「いま何時?」と後ろから声がする。「もう昼前だよ」特に振り向かずシャワーへ行こうとする私に「…

花束

夫の愚痴を別の男に話しながら私は何をしてるんだろうと自分で自分が情けなくなる。最近よく福岡の家へ帰ってくる夫とは挙式まで二ヶ月を切った。挙式は今流行りの家族婚とかいう身内だけのこじんまりしたもので、当初は「まあ簡単に」とか言って想像してた…

おせち

私が生まれ育ったのは京都の東に位置する左京区、寺社仏閣が豊かな街で家から徒歩5分程で銀閣寺に到着する。紅葉や椿のうつくしさで有名な法然院や永観堂は、幼い私と祖父との定番の散歩コースだった。「京都って良いところですよね」大抵の人にそう言われる…

待ちぼうけ

本当のことを言ってしまえば、幾らか楽になるんだろうか。本音で渡り合えば、幾らか心が晴れるのだろうか。今日はクリスマスで、いつもより浮かれた街並みが美しい。平日とは言え、学生の多くは街に出ているのか家族連れも多い天神の昼下がり。私はひとり、…

年の瀬と本音

3年目にして初めて見た顔だった。怒りを抑えたような、切なさを噛み締めたような、淵から感情を溢さないように、必死で堪えた顔だった。いつも軽口ばかりの友人とは別の、知らない男の人がそこに居た。出会ってもう3年になる私達の関係性は、世間的には親友…

真綿に包まれて

冬場はよく長風呂をする。たっぷりのエプソムソルトとお気に入りのオイルを少し垂らした風呂は湯気が立ち込めて気持ち良い。初めは熱々の湯も、しばらく時間が経てば当然ぬるくなる。そして、そのぬるさの心地良さはそう長くは続かなくて、堪え切れず追い焚…

結末

昨晩はいよいよ我慢ができず煙草に火を点けてしまった。彼の前では吸わないようにしていたのに、ウダウダと話される人間関係の愚痴に私の方まで苛ついてしまってつい。薄っぺらいその愚痴を聞くたびにバカな人だと思った。「煙草くさいよ」と止めたのに「慣…

逆行

路肩に停めたクリーム色のミニクーパーは、近くで見ると細かな傷がいくつか入っていた。最近よく乗るからかモヘアニットのガウンにこの車の匂いが染み付いて、スタバで少し休んだ時に香ったその匂いに涙腺が緩みそうになったのを思い出す。 紅葉が始まって山…

雨も届かない

最寄り駅の赤坂、3番出口にはエスカレーターが無くてあるのは階段だけだった。少し長い階段は、その日の雨で既に濡れて滑りやすくなっている。手摺りに指を添わせながら「もしも」に備えて、少し急ぎのヒールを鳴らす。 約束の時間はとうに過ぎていて、財布…

正しくなくていい

窓を開けるとそこにはもう夏はいなくて、心地よい湿度と落ち着いた陽射しが秋を連れてきていた。 今年は梅雨が長かったから、夏が短かったように感じる。長く続いた雨の後、水を枯らすほどの暑さに、相変わらずわたしは文句ばかり言っていた。暑いのも寒いの…

混まれる

「いっしょに西瓜たべない?」 酔ったせいで、夏のせいで、ありとあらゆる言い訳を浮かべてみたけれど、ただ単純に会いたくて連絡をしてみる。 すでに先約が入っていて、すでにお酒も飲んでいて、それでも頭の隅から離れない感情のままに行動してしまう。い…

檸檬

物象や心情が過去形へと変わるとき、もっと爽やかな風が吹くような期待をしていたのに、いざ感じられたのは飲食店の裏側を通るときに感じるような生温くて居心地の悪い風だった。 華の金曜、久しぶりとも言えない浅草での久しぶりの再会は少しの緊張とそれを…

ライフセーバー

昨夜の喧嘩を引きずりながら、アラームの音に目を覚ます。少しのことで(夫からしてみれば少しどころではないのかもしれないけど)拗ねて、極論まで振り切って涙を流す成人相手の喧嘩はかなり体力を使う。 とにかく起きられて良かった。久しぶりの早起きに少…