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フリーライターの吐きだめ

2019-01-01から1年間の記事一覧

年の瀬

殺伐とした満員電車の空気を忘れるような年の瀬の車内は、キャリーケースを抱えた大人たちばかりだ。心なしか彼らはいつもより随分と穏やかなように見える。 煌びやかな街のイルミネーションが消えれば、街はあっという間に正月ムード一色になる。この国の切…

東京

その月曜は突然やってきた。 7時半のアラームを止めて、10分後にかけた2度目のアラームが鳴るまでベッドで暫く横になる。起きてすぐには動けない私にとって、この10分はかなり貴重だ。 2度目のアラームが鳴ったら、さらに10分後にかけた3度目のアラームが鳴…

熱いキスをしよう

雨降りの最近、冬の雨につま先は冷えきってゴールドのバレエシューズは霞みだす。スキニーの裾が濡れてしまって、カウンターの下で裸足になって焼肉を食べた。金曜の夜、行き交う人々は疲れと安堵の表情を浮かべた人が多い。 昨日は久しぶりに自分の欲のため…

惑星基地

わたしが辞めようと、本気で辞めようと思うタイミングで、まるで私の身代わりみたいに誰かが居なくなった。いつもそうだ、大学でも、バイト先でも、職場でも。そして、そうして辞めてしまう人たちはわたしが慕っていた人や、憧れるような人ばかりだった。ど…

リパーク

様々な国と、様々な人種、数多くの文化や伝統は消えたり生まれたりして今に続いている。雪の色を100通りの言葉で表すことのできる、あの民族は春を感じることが出来ても、地面に落ちる前に手に入れた桜の花びらが幸運だとされることなど知らない。 秋はすっ…

エル

先日ハロウィーンを終えた街は、もうすっかりクリスマスなムードで、花屋にはリースが、デパートにはツリーがずらりと並んでいる。赤い実や銀の葉が華やかだ。 少し不気味なムードだったハロウィーンも、これから始まる幸せなクリスマスソングもすきで、仮装…

耳たぶ

台風19号は世界規模の大勢力で、各国のメディアからも注目されている災害だ。関東は12日の夕方がピークで、その後はゆっくりと時間をかけて北上していくらしい。 昨日にはJRの計画運休が決まっていたし、昼休みに寄ったスーパーの棚はオフィス街にも関わらず…

挟んだ栞

社員証をかざして重みのあるドアを開けようとすると、いつもより軽くて視線をあげると大きな手が後ろからドアを先に開けてくれていたことに気付いた。 イヤフォンを外して振り返ると見覚えのある人たらしな顔が驚いていて、思わず笑ってしまった。 「あれ?…

おかえり、ヒーロー

満員電車に揺られる今日は金曜日、やっと1週間が終わる。今週はやけに時間がたつのが遅くて、苦しかった。 新しい部署に配属されて、3週間目に突入した。ようやくなんとなく慣れてきたところだ。周りの先輩達は話に聞いていたよりもずっと良い人ばかりだし、…

きみの鳥はうたえる

夜風が夏の終わりを告げ始めてから、夏の息が長い。 台風や通り雨が多い最近は、湿度の高い晴れの日も多くなって、髪をひとつに結って出勤せざるを得ない朝が続いている。 風の強い夜も多いから、翌朝の道路には意外なものがたくさん転がっていておもしろい…

ソラニン

眠る前、クーラーの効いた寝室で布団に包まりながら「本当はちょっと疲れてる」と口に出すとなぜか泣きそうになった。「そりゃあそうだよ」と背中をポンポンと撫でられて、私は泣きだすのを堪えて目をつむった。 新しい職場に来て今日でやっと1週間が経った…

青山

もうそろそろ夏休みが終わる頃なのか、電車には制服を着た学生が増えてきた気がする。 お盆の電車は年の瀬みたいに人が居なくて、揺られていると眠たくなってきてしまう。上京してからは満員電車に乗らざるを得ないけれど、それでも、6年経った今でも、きっ…

生ミント

その日は夜風が気持ちよくて、散歩したくなるような夏の夜だった。 中野で待ち合わせをしたことに特に理由はない。ただ、帰宅のしやすさと下調べをせずとも何かしら美味い店があるという経験からだった。 賑やかなアーケードが見える改札口を出ると、そこは…

ポラリス

上野の事務所で泊まるのは初めてだった。 3階建てのそこは、打ちっ放しの壁が冷たくて備え付けの間接照明がえっちだ。敷かれた布団は柔らかくて無印良品のグレーのカバーが掛かっていた。 お風呂から上がってそこに寝転がると思っていたよりも肌触りがよくて…

夜の波

蝉の鳴き声を聞いたのはクーラーの効いた部屋で、朝マックをUber Eatsで頼んだ後だった。 台風は消滅して、いよいよ夏が始まったというのに、私は私のしたいことを何ひとつ出来ていない。 フジロックにも花火大会にも行けてないし、浴衣だって着れてない。缶…

宣伝みたいな宣伝

夜中の着信は躊躇ってる間に鳴り止んでしまう。手の中で震えてた感覚がしばらくあって、あの人は今どんな顔をしてるだろうと思う。 色々なことが一気に降りかかって、時間を後悔に支配されると自分の今までの選択が間違っている気がして、遣る瀬無くなった日…

summer ghost

宝物みたいに繰り返し何度も聴いたあのデモテープは壊れたiPodの中に入っていて、今はもう聴けなくなった。明け方みた夢は、ひとりで座り込んで大泣きした夜の決意を簡単に打ち砕くようなもので、記憶と生きていくと歩いていたのに。大切にしていたあのデモ…

ばらの花

音楽がすきなふたり、はじまりはSHIBUYA-AXでのベースボールベアーのライブだった。すきな音楽は大体同じだったから、夏には音楽フェスに出かけてふたりでタイムテーブルを組んで回った。彼はバンドをしていて、彼女は彼のつくる曲がすきだった。でもお金が…

通り雨

豆乳バナナ味は早番の通勤電車のお供になっている。最近わたしがハマっているのは野菜生活のスムージーシリーズで、仕事の休憩時間にはビタミン豊富そうな甘夏ミックスをよく飲んでいる。さっぱりしていて美味しいから会う人みんなにおすすめしていたら「回…

忘れられないの

生肉に刃を突き立てたときの柔らかく不快な感覚だった。生温い風が吹いた気がして、私はまだまだ子供だと思った。 人の優しさや温度が煩わしい時間があって、それは所謂ひとりになりたい時間に匹敵するものかもしれない。ひとりを大切にできる人は魅力的だけ…

juniper

規則正しい寝息が右側から聞こえる。時刻は午前三時、夜明けの前のこの時間にまだ日はない。大きな窓から見える空は薄紫の藤の色だ。時折り、寝惚けながらわたしの腰を引き寄せる人は愛が深い人だ。こうして文字を書いてる間にも二度、引き寄せられた。ふら…

そんな夜

気温30度、梅雨の晴れ間。街行く人たちは眩しそうに目を細めて歩いている。日焼け止めとムスクの香り。二の腕には大きな痣が残っているから、私はまだリネンのシャツを手放せずにいる。 6月11日は彼の誕生日で私は会社を3日間休んだ。静岡の高原でシュノーケ…

ic

木曜日、会社を早退して帰った。出勤早々に激しい頭痛と吐き気、立っているだけで目眩がして店長に泣きついたのだ。顔面蒼白だったらしいわたしの顔を見るなり店長と先輩はすぐに早退を促してくれて、幸いすぐに退勤することができた。14時過ぎ、ホームで電…

ティラノサウルス

人見知りではないし、自分からよく話しかけるタイプだと思う。わりとすぐに誰とでも仲良くできるし、とくに好き嫌いもない。それでも「友達」が少ないのは「友達」の線引きが異なることが多いからかもしれない。「わたしたち友達でしょう?」と話されてそう…

梅水晶

朝早くに玄関の扉が開く音がした。 ねぼけた頭が恐怖ですこし覚醒しかけたけど、チャリチャリと鍵がぶつかる音と聞き慣れた足音がしてすぐにまた頭に靄がかかる。今夜まで帰らないはずの人の帰宅だ。ただいまとベッドが沈んで、おかえりと手を伸ばす。どうや…

エミュー

その日は朝の8時前に目が覚めた。4連勤を終えて1日休み、身体は疲れたままで特に脚は重いままだった。それでもなぜか頭が冴えてしまったから昨晩から溜まった食器を洗ったり、1階も地下も隅々までクイックルワイパーをかけた。(乾拭きからの水拭き以外は認…

潜熱

4月30日、天気は雨で肌寒い日だった。春の薄手のニットの上から冬のウールのコートを羽織って出勤、サービス業の私にはGWなんて全くの無関係でむしろいい迷惑だ。稼ぎ時といえば聞こえは多少いいかもしれないけど、最低限のスタッフ数にも関わらず、連休だか…

ハウスの新譜

次はいつ会えると途端に強気になれる人をみるとその自信を分けて欲しいと思う。恋は盲目というけれど、実際問題それについては多くの人が当てはまる気がするし、例外なくわたしにもそういうところはある。恋に落ちたばかりの友人の話を聞いていると、そんな…

本当みたいな嘘の話

どこにだって行けるような気がしてた。それは息をするようにごく自然で、私さえ私についていけないようなスピードだった。私たちの関係は恋人というよりもパートナーという感じで、時には親友として肩を組みあって音楽フェスへ出掛けたし、時には彼氏彼女と…

春風

下着は上下で揃えて買ってしまうタイプで、たまに透け透けの下がセットにされてると女のわたしでも少し動揺してしまう。いざ!のぞむところと身につけても、何の予定もない日に履くだるだるの5枚900円のだるだるの綿パンツには勝てない。 4連勤を終えて、一…