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フリーライターの吐きだめ

黄桃

沈みがちな日々が続いている。これといって明確な理由がある訳ではないけれど、細やかな綻びがチリとなって積もった結果だと思う。きっと誰のせいでもない、強いて言うならば全ては私が招いた結果だ。日中はまだ陽射しが強いけれど涼やかな風が袖口から背中をなぞって気持ちが良い。ジム終わり、舞鶴公園の堀を歩きながら少し見ない間に私の背丈よりも高くなった蓮の葉を眺める。イヤフォンを外すと秋の虫の音が聞こえる。どこまででも歩いていけそうな夜。
翌日、寝付きの浅い夜を越えて朝からジムへ。何のモチベーションもないし、正直はやく帰りたくて軽く有酸素だけして帰宅。そういう日だってあっていい、息してるだけでも偉い。打ち合わせのためにシャワーを浴びて、メイクをしてすぐにまた外出。ミーティングを終えて、自宅でも引き続きライティングを続ける。身が入らない、酒が飲みたい、男に会いたい。理性で煩悩を押さえ込んで気合いで仕事を終えた。「今日の夜とかなんか予定あったりする?」連絡をするとすぐに返信があった。それには返信せず、もう一度シャワーを浴びた。

昨日購入した黄桃を紙袋に入れて彼の家へ向かう。以前スーツ姿が見たいと呟いた私の言葉を覚えていたのか、着替えずにスーツで迎えに来てくれた彼の優しさに荒んでいた心が柔らかくなるのを感じる。分かりやすい、受け取りやすい、軽やかな優しさ。ポジティブで分かりやすくて女好きで完全なるシティボーイの彼、他人の子供なんて嫌いだと話す私に俺もだよとキスするような男の子。ビールで乾杯、つまみながらひとしきり飲んで、桃を剥くために台所へ立つ彼の後ろ姿を眺める。ここ最近は焼酎ばかり飲むようになってどんどんお酒に強くなって、酔いたいのに上手く酔えないのがもどかしかった。「なんか今日全然だめかも」って呟くと「まじ?無敵じゃん」と軽く笑い飛ばす馬鹿みたいな相槌が心地いい。思わずつられて顔が綻ぶ。
結局この日、彼は突然押しかけた私に何も聞かなかった。どうかしたの?とか、話聞くよとか、言いたくなったら言ってねとも言わなかった。ただ、どんな学生時代を過ごしてたのかとか、夏祭りでは何を食べるかとか、そんな他愛もないような話をたくさんした。当たり前のように週末何をしようかと話す彼に最後の海へ行くのは?と聞くと「いいじゃん行こう」と即答。言わない、聞かない優しさを知っている人だと思った。
人は見かけじゃ分からない、だけど人を見た目で判断することは多い。内面は外見に現れるという説もあるし、よく分からないけどふと思う。私って周りからどんな風に思われてるんだろう。普通になりたいと願う大勢の人たちと同じような普通の人間なんだろうか。私が今本当に手にしてるものなんて。