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フリーライターの吐きだめ

2020-01-01から1年間の記事一覧

待ちぼうけ

本当のことを言ってしまえば、幾らか楽になるんだろうか。本音で渡り合えば、幾らか心が晴れるのだろうか。今日はクリスマスで、いつもより浮かれた街並みが美しい。平日とは言え、学生の多くは街に出ているのか家族連れも多い天神の昼下がり。私はひとり、…

年の瀬と本音

3年目にして初めて見た顔だった。怒りを抑えたような、切なさを噛み締めたような、淵から感情を溢さないように、必死で堪えた顔だった。いつも軽口ばかりの友人とは別の、知らない男の人がそこに居た。出会ってもう3年になる私達の関係性は、世間的には親友…

真綿に包まれて

冬場はよく長風呂をする。たっぷりのエプソムソルトとお気に入りのオイルを少し垂らした風呂は湯気が立ち込めて気持ち良い。初めは熱々の湯も、しばらく時間が経てば当然ぬるくなる。そして、そのぬるさの心地良さはそう長くは続かなくて、堪え切れず追い焚…

結末

昨晩はいよいよ我慢ができず煙草に火を点けてしまった。彼の前では吸わないようにしていたのに、ウダウダと話される人間関係の愚痴に私の方まで苛ついてしまってつい。薄っぺらいその愚痴を聞くたびにバカな人だと思った。「煙草くさいよ」と止めたのに「慣…

逆行

路肩に停めたクリーム色のミニクーパーは、近くで見ると細かな傷がいくつか入っていた。最近よく乗るからかモヘアニットのガウンにこの車の匂いが染み付いて、スタバで少し休んだ時に香ったその匂いに涙腺が緩みそうになったのを思い出す。 紅葉が始まって山…

雨も届かない

最寄り駅の赤坂、3番出口にはエスカレーターが無くてあるのは階段だけだった。少し長い階段は、その日の雨で既に濡れて滑りやすくなっている。手摺りに指を添わせながら「もしも」に備えて、少し急ぎのヒールを鳴らす。 約束の時間はとうに過ぎていて、財布…

正しくなくていい

窓を開けるとそこにはもう夏はいなくて、心地よい湿度と落ち着いた陽射しが秋を連れてきていた。 今年は梅雨が長かったから、夏が短かったように感じる。長く続いた雨の後、水を枯らすほどの暑さに、相変わらずわたしは文句ばかり言っていた。暑いのも寒いの…

混まれる

「いっしょに西瓜たべない?」 酔ったせいで、夏のせいで、ありとあらゆる言い訳を浮かべてみたけれど、ただ単純に会いたくて連絡をしてみる。 すでに先約が入っていて、すでにお酒も飲んでいて、それでも頭の隅から離れない感情のままに行動してしまう。い…

檸檬

物象や心情が過去形へと変わるとき、もっと爽やかな風が吹くような期待をしていたのに、いざ感じられたのは飲食店の裏側を通るときに感じるような生温くて居心地の悪い風だった。 華の金曜、久しぶりとも言えない浅草での久しぶりの再会は少しの緊張とそれを…

ライフセーバー

昨夜の喧嘩を引きずりながら、アラームの音に目を覚ます。少しのことで(夫からしてみれば少しどころではないのかもしれないけど)拗ねて、極論まで振り切って涙を流す成人相手の喧嘩はかなり体力を使う。 とにかく起きられて良かった。久しぶりの早起きに少…

強炭酸

眠れたことに安堵して起きる朝。近頃はまた眠りが浅くなりつつあって、夜中に何度も起きたり、明け方ようやく眠れる日々が続いてる。 梅雨明けはしたのだろうか、多分まだだ。日の出前、ベランダに出ると蒸した風と蝉の声が聞こえるようになった。 彼が東京…

蛇の目

ポイ捨てしたくなった。綺麗に塗装された壁、ならされた土が香るテニスコート、艶をまとった枯れかけの紫陽花も、何もかもが疎ましくて、わたしは精一杯胸を張って歩く。ポイ捨てして少しでも汚してやりたい。何もかもが喧嘩を売りつけてくるようなそんな気…

似たような

雷門から歩いて大体10分、赤提灯が並ぶひらけた通りが通称ホッピー通りといわれる場所。平日にもかかわらず、お客は外に溢れかえっていて賑やかだ。 久しぶりの再会、テンプレートみたいな会話をしてからとりあえず生をふたつ。軽く歩いただけで、汗ばむ6月…

ランナー

午前4時、白み出す空に、意外と交通量の多い交差点。街はもうとっくに息をしている。 暑さが寝苦しくて、寝室を抜けてはひとりベランダで音楽を聴きながら、アイスのカフェラテを飲むこの時間が結構すきだ。犬もまだ寝足りていないのか、遊んでと動き回るこ…

湿度

マイナンバーの手続きで連日混み合う役所は、仮設テントまでもが人で溢れていた。「政府がでたらめなことばっかり言うから、とばっちりよ」と2番受付のおねえさんが鼻を鳴らす。確かに、3密なんて言葉が消え去りそうなほどの混み具合だ。受付までは軽く見積…

唇をなぞって

早朝、季節の匂いがまだ沈み込んでいる時間。乾いたアスファルトからは春の陽の光が薫って、人気の少ない通りではご機嫌な犬が歩いている。東京を離れるわたしは、何も持たず、何にもなれず、あの頃のわたしが思い描いていた大人とはきっと程遠いはずで。そ…

大人

昨夜のわたしは少しおかしかった。 泣き腫らした目は案の定開けづらくて、窓から差し込む陽の光が刺さるように痛い。 身体は鉛のように重くて、少し身体を動かすと骨が軋むような音がして、まるで風邪をひいたみたいだと思った。 あっという間にやってくる新…

ダブルチーズバーガー

たぶん、高校生の頃だった。わたしが映画を観るようになったのは、ちょうどそれくらいだった。 部活が終わって明かりのついた教室に戻る。下校時刻ギリギリに終わるバスケ部はいつも先生に急かされながら校門を走り抜けた。 向かいの駄菓子屋でアイスを買い…

エンドロール

人は忘れる生き物だ。 子どもの授業参観や、結婚記念日、光熱費の引き落とし日や大事な会議の資料も、時には忘れてしまう。 忘れたくないものほど忘れてしまうことだってある。 その理由として、人は忘れることで生きていける生き物だからというのがある。言…

夜光貝

大きな機体が空に浮かび上がる瞬間、なんとなくお尻のあたりがひゅんと寒くなるような感覚がして、わたしはあれがすきだ。タワーオブテラーが落ちるときみたいな、スプラッシュマウンテンが落ちるときみたいなあれ。 1月末から羽田空港から石川へ、石川から…

美しい人

夜の東京の街はすきだ。 静かなゴミと発情した猫くらいしかいない。 かつて「眠らない街」と言われた渋谷は、居酒屋のラストオーダーが過ぎた頃には大人しくなるし、それ以外は道玄坂のネオンに消えていく。 年が明けてからは京都へ帰省したり、福岡へ物件を…