war

フリーライターの吐きだめ

yumegiwa last boy

 

大学生の頃、スーパーカーを聴いて構内を歩いてると必ず出会う男の人がいて、私はなんとなくその人に運命を感じてしまっていた。その人とは喫煙所で何度かライターを貸し借りしたり、レイトショーを観に行ったりしたけれど、わたしは彼の名前も知らないまま知ろうとしないまま過ごしすぎて彼が東京から居なくなった理由をそれから半年経って知った。私が彼のことで知っていることといえば煙草の銘柄とダーツが上手いことと春が好きなことくらいで、本当にそれくらいだった。

「だから運命とか信じちゃうんだよね」とこの前、久しぶりに会った友人に話をしたら「運命なんてないよ」ちょろいんだからと笑われた。

そもそも運命とはなんぞや?

【運命】人間の意思に関わらず身にめぐってくる吉凶禍福。めぐり合わせ。

辞書で調べちゃったりしてみたけれど、文字で説明されると運命を感じたときの大部分が死んでしまう気がしてやっぱり感覚的な部分が多いよなと思った。

冬を感じるもう少し前に知らない番号からよく電話がかかってきた。通常運転なら気にせず無視するところだけど、その日は何となく電話に出てみたくなって通話ボタンを押した。何秒か沈黙が続いたあとに「まほさんですか?」と無愛想な声が聞こえて彼だとすぐに分かった。「何してんの」と思わず笑ってしまったけど、電話越しに向こうも笑ってるのが分かって安心した。

電話の内容は、今度個展を開くから見に来いというもので「行けたら行く」と伝えると「来るまで待ってる」という新しい返事をされた。それから、いつからどうして私の名前を知ってるのか聞くと専攻してたフランス語の授業で知ったらしいことが分かった。そもそも同じ授業を取ってたことさえ知らなかったから「いつもいちばんの前の席に座ってるから話しかけられなかった」と言われて、可愛いやつだなと犬にするみたいに撫で回したくなった。

アルバムにA面、B面があるみたいに私が私の運命に夢中になっている間、例えば他のだれかも運命を感じていたとして、それが重なったときの震えってやっぱり何にも変えられないんじゃないかな。誰かの人生に自分の出番があることって何よりもドラマチックじゃないですか。