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フリーライターの吐きだめ

山菜の苦味にはまだ慣れない

夏が近づくと保湿コーナーが角にやられるあの現象はいったい何なのか、露出増えるはずなのになとか思いながら駅前のドラックイレブンに吸い込まれる。福岡はマツキヨ完敗、ドラックイレブンのひとり勝ちらしく、街を歩けば大体すぐに勝者を見つけられる。ニベアのちょっと高いボディクリームをカゴに入れながら、オイルインされた入浴剤に悩む。1500円のボディクリームと1000円の入浴剤、ギリギリアウトライン。生まれ変わったらローラメルシエのボディクリームをバカみたいに塗りたくれる女になってみたい。

風呂上がりの努力をひた隠しにして、絡めた足は大抵の夜には好評だし、いざと言うときに脱げる身体をひとつの目標にジム通いは続けている。とはいえ、挙式を終えて心も身体も充電切れを起こして、最近までめちゃくちゃに体調を崩していた。久しぶりに熱を出したし、久しぶりにちゃんと看病された気がする。

今ではすっかり回復して、季節は四月。桜もあっという間に散ってしまって散歩コースに植わった桜はもうすっかり葉桜になってしまった。出会いと別れの季節なんて言うけど、確かに四月に移り変わってからは人付き合いがガラッと変わったような気がしてる。新規顧客の獲得月のような、そんな感覚の月。だから多分、かつて私が関わってきた人たちとは暫くは会えなくなるんだろうなと思う。でも多分それでいい。25歳もあとしばらくで終わりを迎える。ひとつ歳をとるだけだろうけど、良い風に変えていこう。少し髪でも切ろうか。

虚実

寝ても寝ても身体が怠い。久しぶりに風邪でも引いたのかと思って体温を測ったが至って平熱だった。花粉症のせいで酸欠状態なのか、就寝前に薬は飲んでるというのに。起き上がる背中にも鈍痛があって、寝付きは良いが目覚めが悪い。体調を崩す前、性欲が高くなる話をすると俺もだよとまさかの分かり合えて驚いた。これは本能的な何かだったりするのだろうか。それとも私たちが似ているからなのだろうか。四肢がいつもよりも重く感じる。

夜、あまり時間を割けないからといつもの距離をランニングしただけで、酷い汗をかいた。そういえば走るのは久しぶりで、最中、距離とか時間とか消費カロリーを気にし過ぎると体感よりキツくなってくる。だからあまり気にし過ぎず、ただ音楽を聴きながらボーッと走るのが一番気持ち良い。小学生の頃、駅伝に出場したのを思い出す。中学受験を控えてた私は夜遅くまで塾へ通い、朝早くから陸上部の練習に出ていた。あの頃が一番ガムシャラに頑張れていたりして。選抜メンバーに選ばれた時はやっぱりすごく嬉しかったな。

好きな子には意地悪しちゃうあの人と、好きな子はとことん甘やかしちゃうあの人と、どちらも心地良くて選べない。二兎追うものはなんて言うけど、私はもう捕まえてるし。選ばずに色んな選択肢を残しておくのも批判無しにして貰えないだろうか。だらしがない、欲深いと言われればそれまでだけど、なんとなく趣味の領域に近い感じがあって多趣味なだけだと言い聞かせた際はものすごく腑に落ちた。男性関係だけでなく、生きていく上で気が多い私は多趣味な生き方しかできない。多趣味だからこそ話題の幅は広いはず。以前ティンダーで会った男に「全方面からモテようとしてるやん」と言われたことがある。彼は二軒目の騒がしい居酒屋で私のことを見抜いていたのかもしれない、もしくはそろそろセックスしたかったのかも。

この場所の更新頻度が最近高いのは、特に面白いことがあったからでも、センチメンタルだからでもない。ただ下手でも納得いかない文章でもとにかく書き続けることが大事なのかもしれないと思ったからだ。もはや飽和状態のユーチューブすら、毎日更新をし続けているチャンネルはどんな質であれ人目に付くことが多くなる。世に出す以上、見られなければそれは何の意味も持たない。だからといって高く評価されたいとかそういうのではないけど、これはある種の祈りに近いのかもしれない。言葉で表せないあの素晴らしい瞬間を、どうしても言葉で表したい。心が揺れる瞬間に言葉で近付きたい。それが私が書き続ける訳であり、願い。

やっぱり体調が悪いのか、いつもよりセンチメンタルなことを言ってしまってる気がする。風邪気味ということにして、今日ぐらいはまあいいか。なんとなく香る私っぽい文章を感じてくれている人がいるならそれだけでもう十分です。

背中の痛み

挙式まで一ヶ月を切った。粛々と準備をしながらも両家の質問の窓口になった私のラインはいつもより通知が多い。世間は未だコロナ、コロナとうるさいし、関東は緊急事態宣言が延長された。もう勘弁してくれよと思いながらも、夜の上野を歩いてると土曜の夜らしい賑いで清々しいほどの矛盾を見た。喫煙所に植った桜の花がもう咲いてる。そんなに暖かかった記憶もないけれど、酔いの入った大人たちが満開の桜を仰いでいる姿は青さがあっていい。

会いたかった友人たちとは予定が合わず、今回はあまり会えなかった。こういう瞬間に東京で暮らしていないことを実感する。じゃあ来週で、なんて約束が気軽にできない。性欲はあるのに、いざセックスする気力はない。なんだか全てに気乗りしなくて気付けば書店でいくつも本を買ってしまっていた。キャリーで来たとはいえ、後悔するぞとかなんとかひと言欲しかったけど誰にも止められなかったので大人の贅沢を。隅田川沿い、雨降りの東京は想像以上に寒かったから部屋にこもって本を読むのに適していた。

時刻は深夜二時、何となく二十代について考える。何でも出来ると思っていた訳じゃない、だけど何でもしてみたいと思って過ごしてた。故郷以外の場所で生きるのは思っていたよりもずっと孤独だった。一日中セックスしたり、酔い潰れてガスコンロに吐いたり、突然耳が聞こえなくなったりした。自分のご機嫌をとるのが、他人との距離感を掴むのが上手くなった。脆くなったし、大胆になったし、言えないことも多くなったし、貪欲にもなった。それから、それを隠せるようになった。

共に生きていく人を選んだ二十五歳、これで良かったのか、これが良かったのか、人生は矛盾ばかりだから深くは考えない。何事も軽率ぐらいでちょうどいい。会いたい人は片手で収まるくらいがちょうどいい。世の中のほとんどの人は嬉しいけど悲しいし、楽しいけど切ないはず。そういう終わりのないどうしようもない話を終電を逃した後の少し騒がしい喫茶店であなたと話したかったなと思う。

 

汗ばんだ肌からは陽の匂いがする

二度寝から目覚めた日曜日はもう昼過ぎで、汗だくのまま眠りについた身体はベタついていた。絡み付いた腕から出て散らばったトレーナーを頭から被っていると「いま何時?」と後ろから声がする。「もう昼前だよ」特に振り向かずシャワーへ行こうとする私に「どこいくの?」と彼。「シャワーだよ」と振り返るのと同時に二の腕を掴まれてベッドに逆戻りだ。「ちょっともう」と彼を嗜めながら、小さな文句を言いながらも彼の大きな身体の上に乗っかっていると、自分が華奢できちんと女であることを自覚できる。「腹へった」と乱暴に言葉を浮かせるくせに私の頭を撫でる手や背中をなぞる手はそれから想像出来ないくらいに優しい。

「シャワー浴びてどっか出掛けよ」そう話す私に「よっしゃ行くかあ」と大きな伸びをしながら彼、最近はあまり出掛けられていなかった。久しぶりのお出かけだ。比較的に準備は早い方だと思うけれど、急かされながらする化粧ほどイライラするものはない。けれど上へ上へと伸びる睫毛を見つめながら素直に感動している男を横目にするのは、そこまで悪いもんじゃないかもしれない。

以前、酔っ払った私が彼に話した彼の好きなところのひとつに歩き方というのがあって、大きな歩幅で象みたいにゆっくり進む歩き方がすきだと告白していたらしい。シラフの今でも確かに頷けるほど好きなところだし、それを聞いた本人もなぜかそれをとても気に入ってるらしいから結果オーライだ。スッと手を握られて心地良い彼のペース。私のすきな彼の歩き方。頑固な私が他人のペースに心地良く乗り込むなんて本当に珍しいと思う。これまでなら相手をこちらに引き込んできたのに。彼に対してはそんな気持ちすら湧かず、むしろ彼のペースに乗るのがわりと楽しかったりするから人生分からないものだ。

いくつか店を回ってると思っていたよりも天気が良くて腰が汗ばんだ。二人ともお腹が空いていたし、そのまま少し歩いて気になっていた蕎麦屋へ入った。彼はランチのお得な定食セットを、私はなめこおろし蕎麦を注文した。店内は思っていたよりも混んでいたけれど運良くすぐに中へ入れて良かった。「それ似合ってる、良い感じじゃん」そう言って目線で指すのはおろしたてのピンク色のトレーナー。今まであまり着てこなかったピンク色をなぜか今年はものすごく着たくなって、この前宮城に行った時に衝動買いしてしまった。「ほんと?ちょっと派手だよね」同じように目を落とす。「たしかに目立つね、でもいいよ」頷きながら可愛いと続けられて素直にうれしい。

意外とすぐに出てきた蕎麦をズルズルとすすって、近くのカフェでコーヒーを買いながらこれからどうするかと話す。天気だけは無駄に良くて「海、行きたいな」と話すと「ああ、いいね。行っちゃうか海」そう返した彼はiPhoneですぐに近くのレンタカー屋を探していた。福岡から綺麗な海といえば糸島で、中心地から大体一時間半ほどで到着する。レンタカー屋の少し面倒な手続きが終わる間、自販機で買ったオレンジジュースを二人で飲む。オレンジジュースはよく冷えていて美味しかった。

運転席の彼を見るのはもう何度目になるだろう。思い返せば私たちは付き合う前からよく出掛けていた。彼の運転はかなり上手でお世辞抜きにどんな山道でも酔ったことがない。鏡越しに私の顔を見て話す彼の姿が結構セクシーで、眠るのが勿体ないなと思いながらもつい眠ってしまう。「寝るなよー」と言いながらも私が眠りにつくといつもより少しスピードを落として起こさないように運転してくれてることを付き合い初めの頃に知った。そういう朗らかな好きがこの人には溢れている。

久しぶりの糸島は冬の荒っぽい海から柔らかな春の海へと変化していた。名物の塩プリンを買いに長蛇の列に並ぶ。並ぶのも待たされるのもディズニー以外は許せない私たちだけど、なんだかんだお喋りしてるとすぐに最前になった。変わり種のチョコとキャラメルはすでに売り切れでスタンダードなカスタードだけ二つ買って車まで戻る。潮の香りが漂う春風、肩に腕を回されてぐっと距離が近くなる。いつも付けてる香水を彼はもう私の匂いと認識していて「まほの匂いと海が混じってる」と嬉しそうに話した。

路肩に車を停めて濃厚なプリンを食べた後は市内へ帰ることに。当たり前のように同じ場所へ帰れることが未だに不思議に感じる。「行けてよかった、ありがとね」そう言って彼の方を見ると「おう、いい彼氏だからな」と得意げに笑っていた。混み始めた道は夕焼けが綺麗だ。でももう随分と陽が伸びた。「夏になったら壱岐島行こうな」まほ絶対に好きだと思うよと楽しそうに続ける彼の横顔みて、あの時勇気を出して良かったと心の底から実感する。二度目の夏は意外ともうすぐそこなのかもしれない。

 

 

花束

夫の愚痴を別の男に話しながら私は何をしてるんだろうと自分で自分が情けなくなる。最近よく福岡の家へ帰ってくる夫とは挙式まで二ヶ月を切った。挙式は今流行りの家族婚とかいう身内だけのこじんまりしたもので、当初は「まあ簡単に」とか言って想像してたのにその想像はあっさり裏切られた。ドレスを着るのにも思いの外、体力と気力を消費する。一月末の吉日、慶次用切手を購入するために福岡中央郵便局まで出掛けた。こういう昔ながらの風習みたいなものを煩わしいと思いながらも、習わしに厳しい祖父母のことが頭に浮かんでなんだかんだ良い子で居てしまう。良い子、良い孫がこんなにも悪いお嫁さんにどうしてなっちゃったかな。夫は世間的にも友人が言うにも配偶者の私からしても、文句無しに良い人で良い男で良い夫だ。おそらくまだ先のある人生を共に歩むならこの人だと遺伝子レベルに感じる。これを愛と呼ぶなら私は夫を愛してる。だけど、きっと好きじゃない。私の好きな脚本家のひとり、坂本裕二の「カルテット 」で同じ台詞を聞いた。そして「夫婦って別れられる家族だと思います。」たしかこんなことを夫に失踪された妻が言っていたっけ。うん、分かる。分かるけどやっぱり家族だから、家族になると決めた人だから、私は別れを選びたくない。

日中、星乃珈琲で作業をした後、久しぶりに天神行きつけの肉料理屋へ向かった。二人で外で飲むのは久しぶりだったから楽しく飲むつもりだったのに、というか日中はパンケーキを半分個ずつしたりしたのに、私がひとりの時間が欲しいと話した途端に楽しい時間は終わった。努めて明るくカジュアルに提案したつもりだったけど、そういう問題じゃないらしい。いつもと同じ、夫が全面に出す悲しみに私の気持ちはぺしゃんこに潰されて端の方にゴミみたいに転がる。夫が泣いて、私が謝る。「好きだよ、大好きだよ、泣かないで」そう言いながらゴミみたいに転がった大切な私の気持ちを見て見ぬふりをする。本当にゴミみたいに汚いものを見るみたいに、もう触れないないように重い蓋を。帰宅後もまだ涙を滲ませる夫の額を何度も撫でながら、自分のこころが少しずつ死んでいくのが分かった。「散歩してくるね」そう言って家を出て、近くのコンビニに駐車して待つ彼の車に乗り込む。何も言わずに頭を引き寄せられて「ああまだ大丈夫」と力が抜ける。問題の解決にはならないコスパの悪い応急処置にいつまで縋り続けるんだろう。でも今はその手当がないときっと息が出来なくなっちゃう。適当に車を走らせる彼は久しぶりだから緊張するとあまり目を合わせてくれない。赤信号「髪染めた?」「染めてないよ、なんで」「なんかサラサラしてる」そう言って髪を掬う手の大きさに他の男の人を思い出す。そうしてこの男も夫の愚痴をこぼす私のことを愛おしいと言うから私はもう訳が分からなくなってきた。大体みんな普通のフリして普通じゃない、きっとみんなちょっとずつ変。

浴槽にはった熱々のお湯がこの文章を書いているうちにもう随分とぬるくなってしまった。ストレスからか、今朝から不正出血が起きているせいで股からは血が流れ続けてる。血で濁ったお湯は、さっきまで自分の体液だったはずなのにものすごく汚い。ほんの少し鉄の匂いもする。こんな風に分かりやすく痛いって伝わればどんなに楽になれるか。ああそういえば、ひとりふらっと立ち寄ったキホシネマで観た和製500日のサマーみたいな映画、あれ悔しいけど泣いちゃった。でも今日みたいに泣けないよりもずっと清々しくて良かったな。あの人は元気にしてるだろうか、きっと何とかやってるだろうな。さあ明日は挙式の最終打ち合わせだ。

おせち

私が生まれ育ったのは京都の東に位置する左京区、寺社仏閣が豊かな街で家から徒歩5分程で銀閣寺に到着する。紅葉や椿のうつくしさで有名な法然院や永観堂は、幼い私と祖父との定番の散歩コースだった。「京都って良いところですよね」大抵の人にそう言われるので「そうですね、でもお寺ばっかりですよ」なんて返すものの正直悪い気はしないし、実際に方言マジックを使って気になる男の子を誘惑できたりするので京都出身でよかったと思う。とはいえ、夏は蒸される暑さ、冬は底冷えの寒さで決して暮らしやすい土地ではない。山が多い分、坂道ばかりで自転車移動は地獄だ。左大文字の麓にある私の実家も例外なく急勾配の上り坂の上に位置しているから、学生時代は自然と足腰を鍛えられたものだ。18年を過ごした京都、思い出ばかりのこの土地にほんの少し息苦しさを感じてしまうのは私がまだ未熟だからだろうか。

約2年ぶりの実家への帰省。昨夜、大晦日は大濠公園の裏手にあるわりと有名で大きな神社へ参拝に。ちょうど日付が変わる頃に鳥居をくぐった。そんなに人は多くなかったけど矛盾ばかりのソーシャルディスタンスが馬鹿らしくて笑ってしまう。雪が散らつく中、ほんの少し奮発して50円を投げ入れる。五重の縁とまでは言いません、与えられたチャンスは全て受け取れますように。干支みくじはふたりして大吉、願事は叶うらしいのでラッキー。結ばずに財布に入れて2021年を迎えることにした。帰宅後、冷えた身体を湯船に浸かって温める。掛けようと思った電話、まあいっかで終わらした感情、仕方ないで締め括る結末、世界は滞ったかもしれないけれど、私は心も身体も自由な年だった。それからネイルするのが少し上手くなった年だった。

今年はどんな年にしようか。愛情の行く末を見つけられるだろうか。

待ちぼうけ

本当のことを言ってしまえば、幾らか楽になるんだろうか。本音で渡り合えば、幾らか心が晴れるのだろうか。今日はクリスマスで、いつもより浮かれた街並みが美しい。平日とは言え、学生の多くは街に出ているのか家族連れも多い天神の昼下がり。私はひとり、ホテルのカフェラウンジでホットのロイヤルミルクティーを飲んでケーキを買いに並びに行った彼の帰りを待っている。ずっと来たかったホテルメイは流行りのちょっとお洒落なホテルで、フルーツサンドが有名。27日まで期間限定のコーヒークリームとあまおうのサンドを食べたけど、想像通りの味だった。こんな風に書いていると賑やかな今日の日にものすごく荒んだ女みたいで嫌だ。左腕には昨夜プレゼントにと貰ったアニエスの時計がひかる。ゴールドのバンドと滑らかで上品なブラウンの文字盤が可愛い。物に罪は無いからきっとこの先、ペアを持つ彼と別れたとしても大切に使おう。

店内に流れる柔らかなクリスマスソング、なんとなく心に感じる違和感を無視してしまっていいんだろうか。「メリークリスマス」と連絡をよこした彼のことが頭の隅から離れないのはどうしてだろう。彼から貰った薔薇とモミの木の香りが忘れられないからか。いずれにせよ交わらない点と点であることを、私は私に言い聞かせている。手首からはあの青々しい甘さと温かい樹皮の清らかな香り。どうか私だけ特別扱いしないで。そんな願いをクリスマスにしてる女は私くらいかもしれない。

これから家に帰ってチープなピザとシードルで乾杯でもする予定。いちいち鼻につく相槌を受け流して、身体の相性に甘んじて夜を越えて、日々を飲み込む。いい加減に顔見知りが多くなり過ぎていて、もう気ままに遊んだりは出来なくなってきた。凍てつく冬の海風、耳も鼻も唇も冷え切って目からは涙が出る夜明け前の空気。家の裏手にある港を歩いて、引き潮の海を眺めてるとささくれ立った心にゆるやかな水面が広がる。高速のひかりが際立って、凪の海に輝くのを私だけが知ってる。そんなささやかなうつくしさを誰かに伝えたいと思う日が、私にも来るんだろうか。