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フリーライターの吐きだめ

ダブルチーズバーガー

たぶん、高校生の頃だった。わたしが映画を観るようになったのは、ちょうどそれくらいだった。

部活が終わって明かりのついた教室に戻る。下校時刻ギリギリに終わるバスケ部はいつも先生に急かされながら校門を走り抜けた。

向かいの駄菓子屋でアイスを買い食いしながら友人と歩く。少し前を歩く友人が古典の教師の真似をしたのが可笑しくて笑ったりして。

京阪七条から最寄りの出町柳へ。

ほとんどの友人は逆方向だから、わたしはいつもキャプテンを務める友人と出町柳まで帰っていた。週末にある英単語のテストに備えて、よく問題を出し合った。

駅に着いて階段を上がるとロッテリアのジャンキーな匂いがしてお腹が空く。また明日と手を振る彼女を少し長く見つめたあと、わたしは隣のTSUTAYAへ吸い込まれていった。

借りる映画もアルバムも全部わりと適当で、なんとなく良さげなものを1週間レンタルする。それから選ぶのは安くてお得な旧作だけだ。

家へ着くのは7時を過ぎるか、高校2年の予備校に通い出した後はもっと遅かった。それでも当たりのアルバムを聴いた後は、音楽好きの先輩と夜な夜な連絡を取り合ったり、スカイプで音源を交換したりした。

周りに映画好きは居なかったけど、試合の後や模試の後は必ずひとりで映画をみて、上気せるほど湯船に浸かった。

それから湯冷ましに駅のTSUTAYAまで歩いて、カウンターで返却する。夏の夜は生温くて、着く頃にはまた少し汗ばんだりして。

顔を赤らめた学生達が肩を組む交差点、パチンコ屋のタバコの臭い、繁盛している銭湯を通り過ぎれば、日常に引き戻された。

 

映像作品に出てみないかと誘われたのは突然だった。専ら観る専門で、演じることに更々興味なんて無かったくせに、わたしは好きな男のために一度だけ、映画に出演した。

映画といっても学生の卒業制作のようなものだ。それでも、関わる全ての人が真剣で、熱くて、不純な動機でそこへ加わってしまったわたしはどうにも肩身が狭かった。

わたしが演じたのは強がりで不器用で芯のある女の子で、余命が僅かというプレッシャーのかかる難しい役どころだったから、かなり荷が重かったのを覚えてる。

クランクアップ後も正直感動はなくて、後日送られてきた DVDも開封せずそのままゴミ箱に捨てた。何も残らなかった。

そんなことを思い出したのはつい最近で、きっかけは中野の居酒屋だった。カウンターからお手洗いに向かって、扉を開けた先に居たのが当時共演した同じく主演の男の子だったってわけ。

そんなことある?とか言いながらひとしきり笑ったあとカウンターで飲むことになった。あの頃とあんまり変わってないねと話すと、あなたは変わったねと言われた。指先が触れて思い出したのは、撮影終わり2人でバスに揺れながら指先が触れてたこと。

それから、あの頃好きだった人は、きっとわたしのことを一度も好きじゃなかったこと。