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フリーライターの吐きだめ

正しくなくていい

窓を開けるとそこにはもう夏はいなくて、心地よい湿度と落ち着いた陽射しが秋を連れてきていた。

今年は梅雨が長かったから、夏が短かったように感じる。長く続いた雨の後、水を枯らすほどの暑さに、相変わらずわたしは文句ばかり言っていた。暑いのも寒いのも苦手だ。

それでも、この夏は山口県の角島を筆頭に色々な島と海と山を巡って、夏の最後には八丈島という東京の島へ行って来た。

海亀に出会える澄んだ海、蒸し上がるスコールと水平線のみえる露天風呂。誰にも出会わない夜道は街灯がやけに明るく感じて、世界の終わりみたいな夜だった。

幾つかのどうしようもない過し方のせいで、秋になるというのに、わたしの身体には夏の痣がいくつも残ってる。もう押しても痛くはないけど、何度も何度も優しく背中をさする友人の手の温かさは忘れたくない。

なんだかんだ大人になってしまったと、まるで大人になることが悪いことみたいに考えないように、毎日必死なのかも。

九月、西瓜の恋は抑えきれずに溢れて、朝焼け前にやさしく実った。大きな腕の中で何度も頷きながら、泣いてしまいそうになった。優しいあの人は気付いていたのかな。

翌朝の喫茶店で自分が自分で分からないと話すと、免罪符が欲しいだけだと怒鳴った彼女とはもうきっと会えない。加害者と被害者みたいだなとか、やっぱり他人事にしか考えられないから、本当にどこか欠落してるのかもしれない。ひとり残された喫茶店では、バニラが香るラテがすごく美味しかった。

相変わらず自分で自分が分からないけど、自分のほしいものだけは光ってみえる。だから欲しくて堪らなくて、いつも我慢できずに手を伸ばしてしまう。らしいねと笑う人たちは所謂友人が多いけど、友人も結局は他人だ。火の粉が飛んでくればきっと逃げていく。

「そろそろこの曲がぴったりな季節ですね」と吉澤嘉代子が「残ってる」の弾き語り動画を載せていて、久しぶりに聴きながら歩いて帰った。気怠い身体と昨夜からの香水が甘い。残されたように、全部残せていたらいいのにな。

新しい季節を新しいリップで迎えたくて、ずっと欲しかったブラウンピンクのリップを買った。唇に色がのると、何かになれたみたいに、自分の輪郭が少し濃くなったように思えるから安心する。

わたしも人並みに、かりそめでも確かなものが欲しかった。