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フリーライターの吐きだめ

湿度

マイナンバーの手続きで連日混み合う役所は、仮設テントまでもが人で溢れていた。「政府がでたらめなことばっかり言うから、とばっちりよ」と2番受付のおねえさんが鼻を鳴らす。確かに、3密なんて言葉が消え去りそうなほどの混み具合だ。受付までは軽く見積もっても2時間はかかるらしい。

人酔いしてしまったのか少し気分が悪かった。外の自販機で冷たい緑茶を買う。思っていたよりも喉が乾いていたらしく、キャップを開けては何度も口へ運んだ。福岡は街中に花が溢れている。役所前の花壇にはマーガレットがたくさん植っていたけど、あまり好きな匂いじゃなかった。

4月中旬、約6年間過ごした東京を離れ、今まで何の所縁もなかった福岡へ引っ越した。「どうして福岡に?」と聞かれれば、面倒だから「仕事の関係で」と答える。実際、福岡へ越してからライターの契約が決まり、毎月執筆の仕事をしている訳だから嘘ではない。

わたしの家は港の近くで、今日みたいな雨の日はベランダに出ると海の匂いがする。晴れた日は犬といっしょに港の方まで散歩へ。東京よりも広い道幅を歩いていると、知らず知らずのうちに溜まっていたストレスの存在に気付く。テレビから聞こえる大袈裟な笑い声や、他人と腕が触れ合う東京メトロ。

外出自粛中だからまだ満喫は出来ていないけれど、海もあれば、大濠公園とかいう代々木公園並みの公園もすぐにあって、とにかく街と自然のバランスが良いところだ。彼が居るときは、犬と彼と福岡城跡から舞鶴公園、それから大濠公園と、どんどん歩く。汗をかきながら、途中ですきな飲み物を買って、たまに休憩して、本当にただどんどん歩く。

この前は久しぶりにピーピー豆を見つけたのに、おじいちゃんみたいに上手く吹けなかった。おじいちゃんは笹舟も上手に作るし、花の名前もよく知ってる。小さい頃はよくいっしょに散歩に出掛けていた。それまでピーピー豆をしらなかった彼は、それから散歩の度にピーピー豆を見つけてはわたしに知らせるようになった。

彼は東京と福岡を行ったり来たりで、半月は家に帰ってこない。ひとりが楽で好きだから問題はないけど、さすがに少しは友達に会いたかったりもする。自粛解除されたらマッチングアプリでもインストールしようかな。ろくなやつはいないけど。

5月2日には無事に25歳になって、ああこれが噂のアラサーか、とか思うと変な気分だった。映画観て酒飲んで、日中は撮影と執筆、たまにちょっと良い寿司たべて、適度にセックスして、新譜聴いてテンション上がって、42度のお風呂に塩ばらまいて半身浴。中毒性のある切なさを抜き切るのは、ある程度の鈍感さと健康的な生活だ。

とはいえ、健康は正義じゃない。夜中のカップラーメンに救われることだってあるし、諸々放り出してダメな男に現実逃避したい日もある。

明日はネイルを塗りなおそう。夏に向けて新調した上品なブラウンカラーのサンダルは、きっとミントグリーンのネイルがよく映える。