早朝、季節の匂いがまだ沈み込んでいる時間。
乾いたアスファルトからは春の陽の光が薫って、人気の少ない通りではご機嫌な犬が歩いている。
東京を離れるわたしは、何も持たず、何にもなれず、あの頃のわたしが思い描いていた大人とはきっと程遠いはずで。
それでも、少しずつ分かってきたことは細やかなこと。
夕暮れ時にのびる影と、星がよく見える夜の雲のはやさのような、あなただけが気付いたはずのこと。
人を傷つけ、慰め、鼓舞し、寄り添える文章と、新たな土地ではじめるには十分だから。
誰かの夢になった東京、この先もずっと。