war

フリーライターの吐きだめ

الحب

出版社で働くサワくん(以降、サワ氏)は完全なる同志で、この前の夜に私が予定をすっぽかしたから、水曜日の夜に会うのが今年初になってしまった。水曜日の夜の代案は私から提案したものだけど、時間をつくるのが本当の男とか言って予定を空けてくれたサワ氏は多分本当の男だ。(実際に、仕事をバリバリこなしてる人や仕事ができる人の方が時間をつくるのが上手だと本当に思う…)

待ち合わせに少し遅れそうだったから先に店入っててと連絡するとうぃっすとか言われたから既読スルーした。20分遅れて新宿に到着。(またもやiPhoneを自宅に忘れるミス… 本当によくやるから気をつけないと…)どこにいる?と聞くといつものところと言われてニューマンの方へ駆け足で急いだ。柱に寄りかかった背の高い男が小さく手を挙げて、私はサワ氏を見つけられた。開口一番に遅れてごめんと伝えると俺も5分前くらいに着いたとか言われて、めちゃくちゃ嘘つくじゃんとため息をつくと、だって優しいんだもんと笑われて救われた。

新宿に向かってる途中で水炊きが食べたいと伝えていたから、水炊きを食べにいくことに。いいの?と聞くと何でも食べたいからいいよと言われて、そんなに優しかったっけ?と本気でたずねるとちょっと緊張してるわと顔を伏せられて今度はわたしが笑ってしまった。

新宿はビル風が強い、冷たい風が容赦なく体温を奪っていく。向かいに伊勢丹が見えるひらけた交差点には大きなキャリーケースをひいた観光客が多い。路地裏に入ると一気に人が少なくなって冷たい風が和らぐ。今から伺いますと連絡を入れるサワ氏は毎回予約の電話がスムーズで彼のこういうところは本当にモテる男だなと思う。

着いたお店はわたしたちが以前から気になっていたお店でテンションが上がる。暖かくて美味しい匂いがする、しかも掘りごたつで最高のやつ。生でいいんだよねと言われて頷く、そういえば私たち同じ飲み物をいつも頼んでる。生ビールが2つと揚げ銀杏が届いてお疲れ様ですと乾杯、至福。

はいどうぞと渡された本はサワ氏が編集で携わった本、校了時から絶対に買うと宣言する私にあげるから買わないでいいと負けじと宣言されてきた本。裏面を見るとしっかりとサワ氏の名前が書かれていて、本当にすごいなと思う。あなたのこと尊敬してるよと伝えると嘘つくなよと言い返されたから、めちゃくちゃ悔しいもんと伝えるとじゃあ信じると満足そうだった。湯気の上がる白い鍋を取り分けながら、もっと良いもの作るよと言われて次こそは買うからねと念押しすると、ずっとやるよと笑われた。

柔らかな鳥とクタクタになった白菜が沁みる、水筒に入れてずっと飲んでたいお出汁。そういえばねと、最近の色々な事情や引っ越しについて話す。サワ氏は質問を時々しながらも決して私を否定しない。(それが世間的、一般的にバッシングの対象になることでも)やっぱりあなた本当に面白いねえとゲラゲラ笑われる。笑いすぎだよと呆れながら緑茶ハイでいいのと聞くと頷くから私は気の抜け始めたビールを流し込んだ。

緑茶ハイが2つ届いてからは恋愛と性の多様性とか宇宙のはじまりとか、結婚と運命共同体についてとか、フジロックで誰が見たいとか、去年300万回再生しちゃった曲とか、そんなことを話してたらあっという間に時間が経ってた。

店を出てから、ちょっと良い酒飲もうよと言われて酒屋さんへ。詳しいの?全然、詳しい?全然のやり取りをして適当な美味しそうなやつを買った。サクランボの味がする甘いお酒、ラッパ飲みとか絶対にしちゃだめなやつだけどグラスがないから仕方ない。これはジュースだねとお互いに納得、次はラフランスにしようと約束。

いつも小田急線の改札まで律儀に送ってくれるサワ氏、本当にいいよと伝えてもそれくらいしますよと聞く耳を持たない。年上の女が好きなサワ氏の恋愛は彼の神経質さですぐに終わりを迎える。この神経質さがなかったらモテモテなのにと言ってるのをすでに100回以上聞いた。自分のテリトリーを守りたいのねと言うとあなたは本当によく俺のことが分かるよねと項垂れていた。

終電に乗り込んで、去年サワ氏がひとりで2億万回再生したとかいう曲を聴く。音楽の趣味が合うのは分かってたけど本当に良かった。

曲を聴きながら少し酔って連絡をしてきた人の穏やかな寝顔や規則正しい寝息を思い出す。会いたい人の会いたい人になれるのって凄いことだ。あなたが会いたいと思う人になれて良かったと伝えようと思ったけど眠ってるだろうと思ってやめた。寝ても、覚めても。

多摩川に反射する水面のひかりは柔らかく強くてマラケシュの夜を思い浮かべてしまう。ベルベル語で「神の国」と呼ばれるマラケシュ、赤土と蒸した風とムスク、憧れの地にはいつになったら行けるんだろう。私はどこまで行けるんだろう。

 

 

 

Self Control

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