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フリーライターの吐きだめ

あの娘の匂い

慌てて家を出たら外はまるで春の陽気で、風が吹いて香水をつけ忘れたことに気付いた。戻ってつけるのは煩わしくてまあいいかと駅まで歩く。家から駅までの道なりに小さな川が続いてる。川沿いには桜の木が植わっていて私はその春の景色がすきだ。

冬の今はまるまると太った鴨がいる。食べ頃の彼らは明け方になると大きくガアガアと鳴くのが可愛い。この前行ったvisionのtrackmakerの帰りもそうだった、明け方の渋谷は汚い。あの日は誰かの家の洗剤の香りが川沿いにずっと広がっていて遊び疲れた身体にやさしかった。

 

空気が暖かいだけでなんとなくやさしい気持ちになれるのは私だけだろうか、色々な人のやさしさを思い出す。同時に「どれだけ傷つければ気が済むの」と泣かれた日も思い出す。目を腫らしながら店を出たその人が置いていったお冷を見て、かけられなくてよかったと思った。常識的な罪悪感はいつも私から離れたところにある。

 

職場の前の大きなクリスマスツリーや豪華なイルミネーションを見ながら年明けのことを考えている。「年明けすぐに帰るの難しいかもしれない、ごめん」と母に連絡すると「無理せず帰ってきてください、いつでも」の返信。家族だから絶対に仲良くできるだなんて思わないけど、私は両親と妹に末永く幸せでいてほしい。以前、京都に帰るときに「帰る場所がいくつもある人はいいよね」と言われて返事に困ったことがあった。いつでも自分を待っていてくれる人がいることや、迎え入れてくれる環境があるのは確かに幸せなことだと今は思う。

 

「記憶はなかなか消えない、ただ思い出せなくなっていくだけ」小学生の頃に読んだ本の一文で、どんな本だったかも忘れてしまったけど私の中で深く根付いて葉を茂らせてる。

(ここでベランダに干したままになっている雨に濡れた布団を見て書く気をなくす………)