音楽がすきなふたり、はじまりはSHIBUYA-AXでのベースボールベアーのライブだった。すきな音楽は大体同じだったから、夏には音楽フェスに出かけてふたりでタイムテーブルを組んで回った。彼はバンドをしていて、彼女は彼のつくる曲がすきだった。でもお金がないから遊べなくなって、スタジオ練習があるから夜いっしょに居られなくて、よく喧嘩した。
イヤフォンスプリッターをつけて音楽を聴きながら目黒を散歩した。彼のつくったプレイリストが彼女は好きだった。ペットショップを見つけるとふたりで犬をみたりした。
映画がすきなふたり、映画館では彼女のすきなキャラメルポップコーンを頼んで食べた。彼は彼女にポップコーンを食べさすふりをしてよくからかった。彼はからかわれて怒る彼女をみるのが好きだった。邦画を観る度にオリジナルのキャスティングを考えて盛り上がった。彼女のディズニー好きが影響して彼はディズニーにとても詳しくなった。
ふたりはよく喧嘩もしたし、よく傷つけあった。彼は言い過ぎることがあったし、彼女は言わずに不機嫌になることが多かった。
彼は彼女の写真をよく撮ったし、彼女をよく見つめていた。写真の彼女はのびのびとしていた。
彼女は彼によく写真を撮られたけど、カメラの奥のやさしい顔がみたくてレンズをみつめた。彼はいつでも彼女の手を離さないでいてくれた。
どうしようもないふたりの話は突然終わってしまう。SHIBUYA-AXは潰れてしまったし、フルワイヤレスだからスプリッターは要らなくなった。時間は進むけれど、四季は廻り続ける。ふたりには思い出が多すぎた。