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フリーライターの吐きだめ

強炭酸

眠れたことに安堵して起きる朝。近頃はまた眠りが浅くなりつつあって、夜中に何度も起きたり、明け方ようやく眠れる日々が続いてる。 梅雨明けはしたのだろうか、多分まだだ。日の出前、ベランダに出ると蒸した風と蝉の声が聞こえるようになった。 彼が東京…

蛇の目

ポイ捨てしたくなった。綺麗に塗装された壁、ならされた土が香るテニスコート、艶をまとった枯れかけの紫陽花も、何もかもが疎ましくて、わたしは精一杯胸を張って歩く。ポイ捨てして少しでも汚してやりたい。何もかもが喧嘩を売りつけてくるようなそんな気…

似たような

雷門から歩いて大体10分、赤提灯が並ぶひらけた通りが通称ホッピー通りといわれる場所。平日にもかかわらず、お客は外に溢れかえっていて賑やかだ。 久しぶりの再会、テンプレートみたいな会話をしてからとりあえず生をふたつ。軽く歩いただけで、汗ばむ6月…

ランナー

午前4時、白み出す空に、意外と交通量の多い交差点。街はもうとっくに息をしている。 暑さが寝苦しくて、寝室を抜けてはひとりベランダで音楽を聴きながら、アイスのカフェラテを飲むこの時間が結構すきだ。犬もまだ寝足りていないのか、遊んでと動き回るこ…

湿度

マイナンバーの手続きで連日混み合う役所は、仮設テントまでもが人で溢れていた。「政府がでたらめなことばっかり言うから、とばっちりよ」と2番受付のおねえさんが鼻を鳴らす。確かに、3密なんて言葉が消え去りそうなほどの混み具合だ。受付までは軽く見積…

唇をなぞって

早朝、季節の匂いがまだ沈み込んでいる時間。乾いたアスファルトからは春の陽の光が薫って、人気の少ない通りではご機嫌な犬が歩いている。東京を離れるわたしは、何も持たず、何にもなれず、あの頃のわたしが思い描いていた大人とはきっと程遠いはずで。そ…

大人

昨夜のわたしは少しおかしかった。 泣き腫らした目は案の定開けづらくて、窓から差し込む陽の光が刺さるように痛い。 身体は鉛のように重くて、少し身体を動かすと骨が軋むような音がして、まるで風邪をひいたみたいだと思った。 あっという間にやってくる新…

ダブルチーズバーガー

たぶん、高校生の頃だった。わたしが映画を観るようになったのは、ちょうどそれくらいだった。 部活が終わって明かりのついた教室に戻る。下校時刻ギリギリに終わるバスケ部はいつも先生に急かされながら校門を走り抜けた。 向かいの駄菓子屋でアイスを買い…

エンドロール

人は忘れる生き物だ。 子どもの授業参観や、結婚記念日、光熱費の引き落とし日や大事な会議の資料も、時には忘れてしまう。 忘れたくないものほど忘れてしまうことだってある。 その理由として、人は忘れることで生きていける生き物だからというのがある。言…

夜光貝

大きな機体が空に浮かび上がる瞬間、なんとなくお尻のあたりがひゅんと寒くなるような感覚がして、わたしはあれがすきだ。タワーオブテラーが落ちるときみたいな、スプラッシュマウンテンが落ちるときみたいなあれ。 1月末から羽田空港から石川へ、石川から…

美しい人

夜の東京の街はすきだ。 静かなゴミと発情した猫くらいしかいない。 かつて「眠らない街」と言われた渋谷は、居酒屋のラストオーダーが過ぎた頃には大人しくなるし、それ以外は道玄坂のネオンに消えていく。 年が明けてからは京都へ帰省したり、福岡へ物件を…

年の瀬

殺伐とした満員電車の空気を忘れるような年の瀬の車内は、キャリーケースを抱えた大人たちばかりだ。心なしか彼らはいつもより随分と穏やかなように見える。 煌びやかな街のイルミネーションが消えれば、街はあっという間に正月ムード一色になる。この国の切…

東京

その月曜は突然やってきた。 7時半のアラームを止めて、10分後にかけた2度目のアラームが鳴るまでベッドで暫く横になる。起きてすぐには動けない私にとって、この10分はかなり貴重だ。 2度目のアラームが鳴ったら、さらに10分後にかけた3度目のアラームが鳴…

熱いキスをしよう

雨降りの最近、冬の雨につま先は冷えきってゴールドのバレエシューズは霞みだす。スキニーの裾が濡れてしまって、カウンターの下で裸足になって焼肉を食べた。金曜の夜、行き交う人々は疲れと安堵の表情を浮かべた人が多い。 昨日は久しぶりに自分の欲のため…

惑星基地

わたしが辞めようと、本気で辞めようと思うタイミングで、まるで私の身代わりみたいに誰かが居なくなった。いつもそうだ、大学でも、バイト先でも、職場でも。そして、そうして辞めてしまう人たちはわたしが慕っていた人や、憧れるような人ばかりだった。ど…

リパーク

様々な国と、様々な人種、数多くの文化や伝統は消えたり生まれたりして今に続いている。雪の色を100通りの言葉で表すことのできる、あの民族は春を感じることが出来ても、地面に落ちる前に手に入れた桜の花びらが幸運だとされることなど知らない。 秋はすっ…

エル

先日ハロウィーンを終えた街は、もうすっかりクリスマスなムードで、花屋にはリースが、デパートにはツリーがずらりと並んでいる。赤い実や銀の葉が華やかだ。 少し不気味なムードだったハロウィーンも、これから始まる幸せなクリスマスソングもすきで、仮装…

耳たぶ

台風19号は世界規模の大勢力で、各国のメディアからも注目されている災害だ。関東は12日の夕方がピークで、その後はゆっくりと時間をかけて北上していくらしい。 昨日にはJRの計画運休が決まっていたし、昼休みに寄ったスーパーの棚はオフィス街にも関わらず…

挟んだ栞

社員証をかざして重みのあるドアを開けようとすると、いつもより軽くて視線をあげると大きな手が後ろからドアを先に開けてくれていたことに気付いた。 イヤフォンを外して振り返ると見覚えのある人たらしな顔が驚いていて、思わず笑ってしまった。 「あれ?…

おかえり、ヒーロー

満員電車に揺られる今日は金曜日、やっと1週間が終わる。今週はやけに時間がたつのが遅くて、苦しかった。 新しい部署に配属されて、3週間目に突入した。ようやくなんとなく慣れてきたところだ。周りの先輩達は話に聞いていたよりもずっと良い人ばかりだし、…

きみの鳥はうたえる

夜風が夏の終わりを告げ始めてから、夏の息が長い。 台風や通り雨が多い最近は、湿度の高い晴れの日も多くなって、髪をひとつに結って出勤せざるを得ない朝が続いている。 風の強い夜も多いから、翌朝の道路には意外なものがたくさん転がっていておもしろい…

ソラニン

眠る前、クーラーの効いた寝室で布団に包まりながら「本当はちょっと疲れてる」と口に出すとなぜか泣きそうになった。「そりゃあそうだよ」と背中をポンポンと撫でられて、私は泣きだすのを堪えて目をつむった。 新しい職場に来て今日でやっと1週間が経った…

青山

もうそろそろ夏休みが終わる頃なのか、電車には制服を着た学生が増えてきた気がする。 お盆の電車は年の瀬みたいに人が居なくて、揺られていると眠たくなってきてしまう。上京してからは満員電車に乗らざるを得ないけれど、それでも、6年経った今でも、きっ…

生ミント

その日は夜風が気持ちよくて、散歩したくなるような夏の夜だった。 中野で待ち合わせをしたことに特に理由はない。ただ、帰宅のしやすさと下調べをせずとも何かしら美味い店があるという経験からだった。 賑やかなアーケードが見える改札口を出ると、そこは…

ポラリス

上野の事務所で泊まるのは初めてだった。 3階建てのそこは、打ちっ放しの壁が冷たくて備え付けの間接照明がえっちだ。敷かれた布団は柔らかくて無印良品のグレーのカバーが掛かっていた。 お風呂から上がってそこに寝転がると思っていたよりも肌触りがよくて…

夜の波

蝉の鳴き声を聞いたのはクーラーの効いた部屋で、朝マックをUber Eatsで頼んだ後だった。 台風は消滅して、いよいよ夏が始まったというのに、私は私のしたいことを何ひとつ出来ていない。 フジロックにも花火大会にも行けてないし、浴衣だって着れてない。缶…

宣伝みたいな宣伝

夜中の着信は躊躇ってる間に鳴り止んでしまう。手の中で震えてた感覚がしばらくあって、あの人は今どんな顔をしてるだろうと思う。 色々なことが一気に降りかかって、時間を後悔に支配されると自分の今までの選択が間違っている気がして、遣る瀬無くなった日…

summer ghost

宝物みたいに繰り返し何度も聴いたあのデモテープは壊れたiPodの中に入っていて、今はもう聴けなくなった。明け方みた夢は、ひとりで座り込んで大泣きした夜の決意を簡単に打ち砕くようなもので、記憶と生きていくと歩いていたのに。大切にしていたあのデモ…

ばらの花

音楽がすきなふたり、はじまりはSHIBUYA-AXでのベースボールベアーのライブだった。すきな音楽は大体同じだったから、夏には音楽フェスに出かけてふたりでタイムテーブルを組んで回った。彼はバンドをしていて、彼女は彼のつくる曲がすきだった。でもお金が…

通り雨

豆乳バナナ味は早番の通勤電車のお供になっている。最近わたしがハマっているのは野菜生活のスムージーシリーズで、仕事の休憩時間にはビタミン豊富そうな甘夏ミックスをよく飲んでいる。さっぱりしていて美味しいから会う人みんなにおすすめしていたら「回…