war

フリーライターの吐きだめ

忘れられないの

生肉に刃を突き立てたときの柔らかく不快な感覚だった。生温い風が吹いた気がして、私はまだまだ子供だと思った。 人の優しさや温度が煩わしい時間があって、それは所謂ひとりになりたい時間に匹敵するものかもしれない。ひとりを大切にできる人は魅力的だけ…

juniper

規則正しい寝息が右側から聞こえる。時刻は午前三時、夜明けの前のこの時間にまだ日はない。大きな窓から見える空は薄紫の藤の色だ。時折り、寝惚けながらわたしの腰を引き寄せる人は愛が深い人だ。こうして文字を書いてる間にも二度、引き寄せられた。ふら…

そんな夜

気温30度、梅雨の晴れ間。街行く人たちは眩しそうに目を細めて歩いている。日焼け止めとムスクの香り。二の腕には大きな痣が残っているから、私はまだリネンのシャツを手放せずにいる。 6月11日は彼の誕生日で私は会社を3日間休んだ。静岡の高原でシュノーケ…

ic

木曜日、会社を早退して帰った。出勤早々に激しい頭痛と吐き気、立っているだけで目眩がして店長に泣きついたのだ。顔面蒼白だったらしいわたしの顔を見るなり店長と先輩はすぐに早退を促してくれて、幸いすぐに退勤することができた。14時過ぎ、ホームで電…

ティラノサウルス

人見知りではないし、自分からよく話しかけるタイプだと思う。わりとすぐに誰とでも仲良くできるし、とくに好き嫌いもない。それでも「友達」が少ないのは「友達」の線引きが異なることが多いからかもしれない。「わたしたち友達でしょう?」と話されてそう…

梅水晶

朝早くに玄関の扉が開く音がした。 ねぼけた頭が恐怖ですこし覚醒しかけたけど、チャリチャリと鍵がぶつかる音と聞き慣れた足音がしてすぐにまた頭に靄がかかる。今夜まで帰らないはずの人の帰宅だ。ただいまとベッドが沈んで、おかえりと手を伸ばす。どうや…

エミュー

その日は朝の8時前に目が覚めた。4連勤を終えて1日休み、身体は疲れたままで特に脚は重いままだった。それでもなぜか頭が冴えてしまったから昨晩から溜まった食器を洗ったり、1階も地下も隅々までクイックルワイパーをかけた。(乾拭きからの水拭き以外は認…

潜熱

4月30日、天気は雨で肌寒い日だった。春の薄手のニットの上から冬のウールのコートを羽織って出勤、サービス業の私にはGWなんて全くの無関係でむしろいい迷惑だ。稼ぎ時といえば聞こえは多少いいかもしれないけど、最低限のスタッフ数にも関わらず、連休だか…

ハウスの新譜

次はいつ会えると途端に強気になれる人をみるとその自信を分けて欲しいと思う。恋は盲目というけれど、実際問題それについては多くの人が当てはまる気がするし、例外なくわたしにもそういうところはある。恋に落ちたばかりの友人の話を聞いていると、そんな…

本当みたいな嘘の話

どこにだって行けるような気がしてた。それは息をするようにごく自然で、私さえ私についていけないようなスピードだった。私たちの関係は恋人というよりもパートナーという感じで、時には親友として肩を組みあって音楽フェスへ出掛けたし、時には彼氏彼女と…

春風

下着は上下で揃えて買ってしまうタイプで、たまに透け透けの下がセットにされてると女のわたしでも少し動揺してしまう。いざ!のぞむところと身につけても、何の予定もない日に履くだるだるの5枚900円のだるだるの綿パンツには勝てない。 4連勤を終えて、一…

ひつじの夢をみて

左側を歩くようになったからか、最近は右側にもたれたり、右側に傾いて眠ることが多くなった。元々、気性の荒いタイプではないけど口には出さずにメラメラと燃えているタイプだから、怖い目をしていることが多かった。新しい街で人と暮らす生活、暮らす前に…

蛙の子は蛙

斜め45度、後ろから見つめるその人は完全にシティボーイな見た目で女の子が泣きをみるタイプの人だ。ダイヤルを回してラジオを流すその人は以前会った時よりも随分痩せているように感じる。流れ続ける曲たちはなんとなく懐かしくて、どれもすきだと言うとお…

YOUTH

朝帰りの日の電車がすきだ。正しく会社に向かう人達の流れを横目に自分のためだけに時が進んでいるような気持ちになる。お腹が空いて途中セブンの肉まんを買って頬張りながら家に帰る、メイクを落としきってベッドに倒れ込む。若さの消費は寿命の前借りでも…

牡蠣と大工

今日は朝から酷い夢をみた。小学校の頃の親友が自殺する夢だ。入学式の日、名簿順で並んだ座席の隣に真っ赤なドレスを着たお人形さんみたいな可愛いその子がいて、すぐに仲良くなった。たしか入学式当日にその子の家に遊びに行くことになって、そしたらご近…

マンネリ

昼間から飲むビールは美味い、そもそもビールはいつ飲んでも美味いけど、なんとなくの罪悪感がより旨みを引き立たせる。夜中のカップラーメンとかお風呂で食べるハーゲンダッツとかもその類のやつだ。 今日は朝からameen's ovenの春のクッペを焼いた。ameen's…

夢現つな

春の雨は長い。日中の暖かな陽射しは気まぐれで朝晩はまるで冬が舞い戻ったような寒さが続いている。真冬にお世話になったgymphlexのダウンもクリーニングに出せず仕舞いだ。 土日の忙しさが嘘のように今日の職場は落ち着いていた。それでも人員はタイトで問…

高野豆腐

東京の電車に揺られていると自分が何をしてるのか、どこに向かっているのかよく分からなくなることがある。幼い頃から冷めてるよねと周りに言われてきたから、自分のテンションを相手に自然と合わせられるようになった。世間一般でいうサービス業にあたる今…

身じたく

私はよく寝惚ける、今朝もそうだった。何かがとにかく可笑しくて笑いながら起きたものだから、隣からどうしたのと驚いた声が聞こえたけれど頭がぼんやりして言葉にならなかった。少し微睡んでからキッチンへ向かって昨夜使った食器の洗い物をする、常温の水…

白焼き

携帯のアラーム音が苦手なのは朝が苦手だからだろうか、早く起きろと急かす特徴的なあの音は休みの日くらい出来れば聞きたくない。右側で鳴ったそれを止める手は私より早くて相変わらず寝起きがいいなと寝惚けた頭で感心する。いつもは私が先に起きて、私が…

夜を使いはたして

明るすぎる蛍光灯のついたエレベーターで5階へ、招き猫が異様に置かれた風変わりなそこは新宿東南口を出て少し歩くと辿り着けるジャズバーだ。店の入り口には大きな招き猫がいて、私たちを中へと招き入れる。暖かな店内には呪いまがいの飾りや置物、掛け軸や…

冬瓜

世田谷通りにかかる多摩水道橋は街を渡す大きな橋だ。橋の上に等間隔に並ぶ電灯はすらりと高くて目を光らしたキリンみたいに見える。そういえば大学4年生の頃、江ノ島で初日の出を迎える予定がのんびりしすぎて多摩川で初日の出を迎えたことがあった。暖かい…

الحب

出版社で働くサワくん(以降、サワ氏)は完全なる同志で、この前の夜に私が予定をすっぽかしたから、水曜日の夜に会うのが今年初になってしまった。水曜日の夜の代案は私から提案したものだけど、時間をつくるのが本当の男とか言って予定を空けてくれたサワ…

ロマンス宣言

嘘になるけど最近は少しばかり旅に出ていた、時間を作らずに書かずにいた自分を窘めている。なかなか書く気が起きなくて、それも悲しかったけど、いざ書き始めると手が止まらなくて、友人との約束に遅れそうになってしまった。駆け足で外に出ると星がいつも…

ざらめ

京都の実家へ帰省してきた。東京駅から京都駅までは新幹線で片道約2時間半、夜行バスだと約6時間くらいかかる。私の実家は山の方にあって、猿や猪や狸なんかが平気で道を歩いてたりする。春先は梅の香りがして、冬の今は朝露に濡れた椿が強く咲いている。 名…

最後の夜

「孤独を感じたことがある?」駅前の信号待ちで尋ねられた。突然どうしたのよとわたしは笑うしかなくて困ってしまった。尋ねてきた友人の顔つきは真剣で、アスファルトはいつの間にか雨で濡れてた。 刺し盛りを頼んでおきながら甘いサワーを頼む友人、正気か…

夢見る大人へ

幼い頃から本が好きで、眠る前にはよく母に絵本の読み聞かせをねだっていた。読むことが好きで、気付けば書くことも好きになって、読書感想文ではいくつも賞を貰って、その度に賞状の裏に絵を描いて叱られたりした。少し暖かみのある黄味がかった厚地の賞状…

怪物

吉祥寺駅の北口駅前広場には象の像が建てられていて去年の11月頃からその象が毛糸のベストを着だした。いつから建ってるのか、だれがそのベスト(明らかに手編み)を編んだのか、不思議なところはたくさんあるけれど調べようとまでは思えない、ちょうどよく…

非対称な目

大晦日の夜も相変わらず残業、待つ人がいる同期と私は慌てて退勤して2人で駅まで走った。今年も終わりだねと話すよりも年明けこわいねと話す私たちは完全にいわゆる社畜で「まじ来年仕事やめようね」と誓いあう。電車には人がほとんどいなくて足元のヒーター…

大晦日

下北沢の長いエスカレーターに乗ってからふと指先をみると血がにじんでいるのに気が付いた。ホームには新宿行きの電車が到着したみたいで強い風が下から吹き上がってくる。血を見てからなんとなく痛い気がしてきて見なければよかったと思ったけど、血を流さ…